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市名変更、「篠山市」から「丹波篠山市」へ

2019.08.29

2019年5月1日改元に合わせて兵庫県篠山市は「丹波篠山市(たんばささやまし)」に市名変更されました。
仕事柄、市町村の合併や編入をたくさん確認してきましたが、合併や編入など地域の変更なしに市町村名称のみが変更されるというケースを初めて目の当たりにしました。

なぜ「篠山市」から「丹波篠山市」に市名変更することになったのでしょう?!

旧・篠山市の誕生

丹波篠山市「旧・篠山市」は1999年4月1日に多紀郡4町(篠山町・西紀町・丹南町・今田町)が合併し市制施行されました。
みなさんもご存知「平成の大合併」は国から積極的に推進され、「旧・篠山市」がその第一号となります。
その後全国的にも次々と合併が進み、兵庫県の市区町村数は 99 → 49 にまで減少しました。

市区町村数の推移(1998年~2019年)
注意)政令指定都市は区別で計算しています。

「旧・篠山市」は京都府との県境に位置し、栗、黒大豆、山の芋、小豆といった特産物、丹波焼やデカンショ節、観光地としても周知されています。

特産物には「丹波○○」という具合に旧国名である「丹波(たんば)」を広く使用してきました。
またデカンショ節の歌詞に 『丹波篠山山家の猿が♪』 と出てくるように「旧・篠山市」近辺に長く住む人たちにとって「篠山」といえば自然に「丹波」がセットで付いてきて「丹波篠山」とイメージされるようです。

丹波市の誕生

その後2004年11月1日「旧・篠山市」と隣接する氷上郡6町(柏原町・氷上町・青垣町・春日町・山南町・市島町)の合併により「丹波市」が誕生します。
丹波市の誕生により、予期せぬ事態が発生しました。
これまで「旧・篠山市」の特産物である「丹波○○」といった商品が丹波市産として誤解されている。
観光客が丹波市や京都の京丹波町(2005年10月11日施行)と間違えて混乱を招いている。
このままでは将来的にもマイナスになるのではと危惧する声が一部で高まってきました。

調査開始

そこで市名変更を望む声があがります。
2010年には「市名改称問題検討プロジェクト」が発足され、調査が開始されます。
翌年には調査の概要を報告し、市民や団体からもより多くの意見を募集しました。
市名変更を行った場合に生じるメリット・デメリットなど様々な意見から賛成派、反対派それぞれに強い思いがある結果を受け、慎重に検討すべき必要があることがわかりました。
さらに翌年の2012年には「篠山市の市名を考える検討委員会」が設置され、計5回の委員会が開催されます。
その際にも議論を行うことはせず、中立的に論点を明確にしてきました。

市名変更は見送り

検討委員会からの報告によると財政再建の見通しが立ってから行うべき、適切な時期に検討を行うことが望ましい。
「丹波篠山ブランドの強化・定着・維持」、「篠山市の知名度の向上」をめざす方向性で議論を進めていくことが市民のメリットになると判断されました。

1999年(H11) 兵庫県「篠山市」誕生
2004年(H16) 兵庫県「丹波市」誕生
2005年(H17) 京都府「京丹波町」誕生
2007年(H19) JR篠山口駅・丹南篠山口IC 名称変更の署名運動が始まる
2005年(H17) JR篠山口駅・丹南篠山口IC 名称の変更の要望書が提出される
2008年(H20) 京都府「京丹波町」誕生
2010年(H22) 「市名改称問題検討プロジェクト」による検討を開始 メリットデメリットの整理、情報収集
2011年(H23) プロジェクトの調査報告と市民意見を紹介 より多くの意見を募集
2012年(H24) 「篠山市の市名を考える検討委員会」現状の分析、課題の整理と明確化を行う
2014年(H26) 検討委員会から報告書がまとまる 市名変更は見送りになる

危機感

産地表示をご存知でしょうか?生鮮食品には「原産地」、加工食品には「原料原産地名」、輸入品には「原産国名」の表示が義務付けられています。
国は食品表示基準において都道府県名もしくは市町村名または一般に知られている地名をもってこれに代えることができると定めています。
旧・篠山市はこれまでずっと「丹波篠山産」という産地表示を使用してきましたが、兵庫県の方針で一般に知られている地名ではなく市町村名が望ましいとされ「丹波篠山産」は差し控えるよう通告されてしまいます。
理由は「丹波篠山」がどこを指すのか曖昧になったこと、旧篠山町なのか丹波市と篠山市であるのか特定が難しいこと。

このままでは長い長い歳月をかけて築き上げてきた「丹波篠山」というブランドがなくなってしまう恐れがあります。
何としても守らなくてはいけない。
市名が変更されれば「丹波篠山市産」と表示することができるのです。

再燃、市名変更の声

2017年、地元の振興会、商工会、観光協会、農協が市長に要請書を提出します。
丹波市との誤解や混乱の現状を訴えると同時に「丹波篠山市」への市名変更が加わりました。

それでも説明会や話し合いを続けることで合意を得るのが難しく市民の意見は真っ二つに分かれたままでした。

賛成 反対
市外に出ると篠山の認知度が低い 篠山市という市名が定着してきたのに疑問に思う
篠山の知名度を上げるには「丹波篠山」の方が良い 丹波にこだわるより篠山をもっとアピールするべき
不利益をこうむっている現状を解消すべき 変更にかかる費用を地元に役立つ企業に提供する方が大事
合併の時点で「丹波篠山市」が選ばれる事を期待していた 丹波市が存在する限り変更しても余計に混乱・誤解が生じる

市外、県外から客観的な視点を取り入れる

賛否両論の中、問題となるのは「お金」のこと。
 将来のために「今」先行投資するべき
 莫大なコストをかけてまですべきでない

浮き彫りになったのは「経費をかけたところでどれだけの利益が得られるのかわからない」ということ。
そこで「市名変更に伴い想定される経済波及効果調査」が行われました。(当社が関わります。)
東京23区、名古屋市、大阪市、京都府、兵庫県(篠山市・丹波市を除く)、福岡市の20歳以上の男女を対象に

 篠山市の位置を正しく認識できているか
 篠山市への訪問頻度、訪れた目的、宿泊の有無、消費額
 特産品や土産品を購入の際、産地表示の違いでの購買意欲

このような調査項目で行った結果、<<地域経済への影響は52億円以上>> と報告されました。
先ほど産地表示の件に触れましたが、アンケート項目「より買いたいと思う産地表示」の結果です。
まずは「篠山産」と「丹波篠山産」の結果をご覧下さい。当然「丹波篠山産」が有利なのは明らかです。

「篠山産」と「丹波産」の結果も見逃せません。約15%差で「篠山産」が負けています。
この約15%差が大きいのか小さいのか、近い将来この差を縮められるのか、逆転できるのか?

住民投票へ

2018年7月、「市名の名付け親になろう会」が「住民投票条例があるのに市名変更を市長ら一部の人だけで決めるのはおかしい」との声から署名活動開始を表明します。
有権者の5分の1以上(約7,100人)の署名が必要でしたが、活動期間わずか1ヶ月で大きく上回る結果(約1万700人)となり住民投票が行われることになりました。

しかし住民投票が決まっても投票数が半数を超えなければ不成立となり開票すらされません。
 署名数よりも投票数の方が少なくなるのが一般的であること
 投票率向上のため

同年10月、市長は辞職し市長選挙と住民投票を同日に行うことにします。

賛成多数で「丹波篠山市」へ

長い年月を経てようやく結論が出ました。
意外にも結果は僅差でした

前例がないとはいえ市名を変更することがここまで険しい道のりであることに大変驚きました。
市のホームページから酒井市長の「市長日記」や関連資料、報告書の一部を読み、遠方で暮らす私がもしも丹波篠山市の市民だったら、または市長の立場に置かれたらどうするだろうと考えてしまいました。

ここでは紹介できていませんが、今回多くの人たちが目的を持って出来ることに精一杯の力を尽くしています。 市民の方の関心も高く、一度は見送りになっても諦めず市のPR活動にも力を入れてきました。
調べていくにつれて部外者ながら丹波篠山市を勝手に応援したい気持ちになり、経費に使って欲しいと1億円の寄付があったことを知り、励みになったのではないかと嬉しくなりました。

これからの丹波篠山市に注目したいと思います。

<参考資料>

丹波篠山市HP 市長日記
https://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/mayor/

丹波篠山市HP 広報丹波篠山No.218
https://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/public-relations/assets/2017/05/2017.06.pdf

丹波篠山市HP 平成29年度5月議会報告会「丹波ブランドと市名について」
https://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/gikai-jimu/assets/2017/06/201706261540.pdf

丹波篠山市HP 「市名変更に伴い想定される経済波及効果等調査分析報告書」

(第2章 インターネット調査による篠山市のイメージ調査)
https://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/
kikakukakari/assets/2019/08/chousahoukoku.pdf

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